二面体群の部分群の個数
代数学-群論
二面体群の定義
以下で定義される二面体群の部分群の個数を考えてみます。 典型的には、部分群の個数はLagrangeの定理やSylowの定理を利用することによって求められますが、今回は違う方法を採用したいと思います。
以下で定まる位数 $2n$ の群 $D_n$ を $n$ 次の二面体群という。
$D_n = \langle r, s \mid r^n = e, s^2 = e, s r s = r^{-1} \rangle$
二面体群は、正$n$角形の回転および鏡映の全体からなる群です。 上の定義では $r$ が回転に、$s$ が鏡映に対応しています。 また、行列を用いて具体的に記述することもできます。 実際、$r,s$ は以下のような表示を持ちます。
このようにして与えられる二面体群は、次のように簡潔に記述することができます。
二面体群 $D_n$ は $r,s$ を用いて次のように表示される。
$D_n = \{r^i,r^is \ | \ 0 \leq i < n\}$
これにより、位数が $2n$ であることもわかります。
$D_n$ の元 $x$ は $a_i \in \{0,1,\cdots,n-1\}, \ b,c \in \{0,1\}$ を用いて、$x = s^{b}r^{a_1}sr^{a_2}s\cdots r^{a_k}s^{c}$ と表される。 いま、$srs = r^{-1}$ であるから、$sr = r^{-1}s$ である。また、これより $(r^is)(r^js) = r^{i-j}$ も従う。これらを用いれば、 $$x = s^{b}r^{a_1}sr^{a_2}s\cdots r^{a_k}s^{c} = s^{b}r^{a_1-a_2+a_3-\cdots - (-1)^k a_{k}}s^{c}$$ を得る。$b = 0$ のとき、$x$ はある整数 $i$ を用いて $r^{i},r^{i}s$ の形のいずれかで表現される。 $b=1$ のときも、 $$x = r^{-a_1+a_2-a_3+\cdots + (-1)^k a_{k}}s^{1+c}$$ となるので、ある整数 $i$ を用いて $r^{i},r^{i}s$ の形で表される。これより、$D_n$ の元はある整数 $i$ を用いて、$r^i$ か $r^is$ と表される。 ここで、$\{r^i,r^is \ | \ 0 \leq i < n\}$ の元の個数は $2n$ であり、$D_n$ の位数も $2n$ であるから $D_n = \{r^i,r^is \ | \ 0 \leq i < n\}$ である。$\square$
各元の位数は $\text{ord}(r^i) = \frac{n}{\gcd(i,n)}$ であり、$\text{ord}(r^is) = 2$ です。
二面体群の部分群
次に、部分群の個数を考察してみます。
二面体群 $D_n$ の部分群の個数は $\tau(n) + \sigma(n)$ である。
ここで、正整数 $n$ に対して、$\tau(n)$ は $n$ の正約数の個数、$\sigma(n)$ は正約数の総和を表します。 部分群を全て求める際の典型的な手法として、Lagrangeの定理で部分群の位数の候補を絞って全探索をするというものがありますが、その方法では少し大変になってしまいます。 そこで、今回は二面体群の構造を活用した考察を行います。
簡単な計算により、$D_n$ の部分群 $C_n := \langle r\rangle$ は正規部分群であることがわかる。
このとき、$D_n / C_n = \{\bar{e}, \bar{s}\}$ であるから、
$\pi : D_n \to D_n / C_n$ を自然な全射とすれば、任意の $D_n$ の部分群 $H$ に対して、$\pi(H)$ は $\{\bar{e}\}$ か $\{\bar{e},\bar{s}\}$ となる。
$\pi(H) = \{\bar{e}\}$ のとき、$H$ は $C_n$ の部分群であり、これは巡回群に関する事実からその部分群の個数は $\tau(n)$ である。
$\pi(H) = \{\bar{e}, \bar{s}\}$ のとき、$A = H \cap C_n$ とする。$A$ は $C_n$ の部分群であり、$\text{ord}(A) = d$ とすれば、$A = \langle r^{\frac{n}{d}}\rangle$ である。
また、$\pi(H) = \{\bar{e}, \bar{s}\}$ より $(H : A) = 2$ であったので、$|H| = 2d$ である。
いま、$\pi(H) = \{\bar{e}, \bar{s}\}$ より、$H$ はある整数 $k$ を用いて $r^ks$ と表される元を含んでいる。
これより、$\langle r^\frac{n}{d}, r^ks\rangle \subseteq \pi(H)$ である。
また、$\text{ord}(H) = \text{ord}(\langle r^\frac{n}{d}, r^ks\rangle) = 2d$ であるので、$\langle r^\frac{n}{d}, r^ks\rangle = \pi(H)$ を得る。
すなわち、$\langle r^\frac{n}{d}, r^ks\rangle$ の個数を数えればよい。簡単な議論により、$d$ を固定したとき、
$$\langle r^\frac{n}{d}, r^ks\rangle = \langle r^\frac{n}{d}, r^{k´}s\rangle \iff k \equiv k´ \pmod{\frac{n}{d}}$$
であることがわかるから、$\text{ord}(A) = d$ なる部分群 $H$ の個数は $\frac{n}{d}$ である。
以上より、$\pi(H) = \{\bar{e}, \bar{s}\}$ のとき、部分群の個数は $\displaystyle\sum_{d \mid n}^{}(\frac{n}{d}) = \sum_{d \mid n}^{}(d) = \sigma(n)$ である。
よって、$D_n$ の部分群の個数は $\tau(n) + \sigma(n)$ である。$\square$
回転のみを含むような部分群と、鏡映を含む部分群の二つに分けて考察すると楽になるという話でした。 Lagrangeの定理を用いて位数ごとに分類すると、回転を含むパターンと鏡映を含むパターンが混同され、議論が複雑になります。 このような「構造ごとの分類」をもう少しだけ考察してみます。
半直積と群の分解
定理3の証明のカギは、$H$ の部分群の数え上げをより小さな群 $C_n$ と $C_2 := \{e, s\}$ の数え上げに分解したことでした。 この考え方を一般化してみます。
群 $G$ とその正規部分群 $N$ とする。 $G$ のある部分群 $H$ に対して、$G = NH$ かつ $N \cap H = \{e\}$ が成り立っているとき、$G$ を $N$ の $H$ による半直積といい、$G = N \rtimes H$ と表記する。
二面体群 $D_n$ について、$D_n = C_n \rtimes C_2$ が成り立っています。 この半直積の構造があると、定理3の証明のように場合分けを行うことができます。 このことは、次の定理によって保証されます。
群 $G$ とその正規部分群 $N$ 、部分群 $H$ に対して、$G = N \rtimes H$ が成り立っているとする。 このとき、$G$ の任意の部分群 $K$ に対して、$A = N \cap K$ は $K$ の正規部分群であり、$\pi : G \to G/N$ は自然な全射とすれば $B = \pi(K)$ について、$K / A \cong B$ である。
これにより、部分群 $K$ について、$A,B$ の形で場合分けをすることができます。
特に、$A$ は $N$ の部分群であり、$B$ は $H$ の部分群であるので $N,H$ の部分群を考えることに帰着されます。
(ここで、$A,B$ の形に対して $K$ が一意的に定まるわけではなく、$K$ は複数個ある場合や存在しない場合もあります。)
証明はかなり簡単ですが、一応述べておきましょう。
まずは、$A$ が $K$ の正規部分群であることを示す。
部分群であることはその定め方から直ちに従う。
任意の $N$ の元 $x$ に対して、$xAx^{-1} \subseteq A$ であることを示す。
すなわち、$xAx^{-1} \subseteq N $ かつ $xAx^{-1} \subseteq K$ を示すべきだが、$x \in K$ ゆえ後者は直ちに従う。
また、仮定より $N$ も $G$ 上の正規部分群であったから、$xAx^{-1} \subseteq N$ も従う。
次に、$K / A \cong B$ を示す。$\pi$ の $K$ への制限における核は $A$ であるから、準同型定理から $K/A \cong B$ を得る。$\square$
二面体群のケースでは、$D_n = C_n \rtimes C_2$ であったので、まず $C_2$ の部分群について考えて、そこから $C_n$ の部分群を決定し、その個数を数え上げて足すという流れでした。
部分群を直接数え上げるのは大変なので、より小さい群に分解して考えるというアイデアを考えます。 そのなかでも、直積よりも多くの範囲をカバーできる概念が半直積です。 また、一般に直積は半直積です。
正規部分群が存在するからと言って、半直積に分解できるとは限りません。
実際、四元数群 $\{\pm1,\pm i,\pm j, \pm k\}$ は半直積に分解することができません。
余談ですが、四元数群は任意の部分群が正規部分群ですが非可換な群の例です。
ということで、半直積に分解できるときは、その剰余群が大きくなければある程度効率的に場合分けして数え上げられるという話でした。