$\mathbb{R}^2$ から $m$ 点を除いた空間の一次ド・ラームコホモロジー
微分形式 - 線形空間の次元
前提知識を必要とせずに、微分形式が作る線形空間の次元を計算する演習問題として$\mathbb{R}^2$ から $m$ 点を除いた空間の一次ド・ラームコホモロジーの次元の計算を解説します。 関数と図形が対応することの雰囲気がそこはかとなく感じ取れるかと思います。
問題とその解説
$U = \mathbb{R}^2 \setminus \{\mathbf{x}_1, \cdots,\mathbf{x}_m\}$ , $\mathbf{x}_i \not = \mathbf{x}_j \ (1 \leq i < j \leq m)$ とする。ベクトル空間 $$W = \{\omega = fdx + gdy\mid f,g\in C^{\infty}(U), d\omega = 0\} / \{dh \mid h \in C^{\infty}(U)\}$$ の $\mathbb{R}$ 上のベクトル空間としての次元を求めよ。
ベクトル空間 $Z^1(U),B^1(U)$ を次で定める。 $$Z^1(U) = \{\omega = fdx + gdy\mid f,g\in C^{\infty}(U), d\omega = 0\} , \ B^1(U) = \{dh \mid h \in C^{\infty}(U)\}$$ $\varepsilon$ を $\varepsilon < \min\{d(\textbf{x}_i, \textbf{x}_j)\mid 1 \leq i < j \leq m)\}$ なる正の実数とし、$\mathbb{R}^2$ 内の $\textbf{x}_i$ を中心とする半径 $\varepsilon$ の正の向きの円周を $C_i$ と表記する。このとき、各 $C_i$ は $\mathbf{x}_1, \cdots,\mathbf{x}_m$ のうちちょうど $\textbf{x}_i$ のみを含む。 線形写像 $\Phi : Z^1(U) \to \mathbb{R}^m$ を $$\Phi(\omega) = \left(\int_{C_1}\omega, \int_{C_2}\omega, \cdots, \int_{C_m}\omega\right)$$ と定めれば、$\Phi$ は全射準同型である。以下、全射性を示す。
全射性
$f,g \in C^{\infty}(U)$ を $$f_i = \frac{-(y-y_i)}{(x-x_i)^2+(y-y_i)^2}, \ g_i = \frac{x-x_i}{(x-x_i)^2+(y-y_i)^2}$$ で定めれば、$\omega_i = f_idx + g_idy$ は $d\omega_i = 0$ を満たす。また、簡単な計算により $$\int_{C_i}\omega_i = 2\pi$$ を得る。 一方、$j \not = i$ について、$\omega_i$ は $\mathbb{R}^2 \setminus \{\textbf{x}_i\}$ ではなめらかであるから、$D_j$ を $C_j$ の内部及び周として、ストークスの定理より $$\int_{C_j}\omega_i = \int_{D_j} d\omega_i = 0 $$ を得る。以上より、$(a_1,\cdots,a_m) \in \mathbb{R}^m$ に対して、 $\displaystyle \omega = \sum_{i=1}^{m} \frac{a_i}{2\pi}\omega_i$ とすれば、 $$\Phi(\omega) = \left(\int_{C_1}\omega, \int_{C_2}\omega, \cdots, \int_{C_m}\omega\right) = \left(\sum_{i=1}^{m} \frac{a_i}{2\pi} \cdot 2\pi\delta_{1i}, \cdots, \sum_{i=1}^{m} \frac{a_i}{2\pi} \cdot 2\pi\delta_{mi}\right) = \left(a_1,\cdots,a_m\right)$$ となるから、$\Phi$ は全射である。
核の計算
これより、$\Phi$ は全射準同型であるから、準同型定理から、$Z^1(U)/\text{Ker}(\Phi) \cong \mathbb{R}^m$ である。$\text{Ker}(\Phi) = B^1(U)$ を示す。 任意の関数 \(h\in C^\infty(U)\) に対して \(\omega = dh\) とすると、任意の閉曲線 \(C\subset U\) に対して \[ \int_C \omega = \int_C dh = 0 \] である。したがって \(\Phi(dh)=0\) となり、 $ B^1(U)\subset \ker\Phi $ が成り立つ。以後、\(\ker\Phi\subset B^1(U)\)を示す。 任意に \(\omega\in Z^1(U)\) で \(\Phi(\omega)=0\) と仮定する。すなわち、各 \(i\) について \[ \int_{C_i}\omega = 0 \] が成り立つ。これから \(\omega\) がある滑らかな関数の全微分であることを示す。 任意の滑らかな閉曲線 \(C\subset U\) に対して、\(C\) が囲む\(\{\mathbf{x}_{1},\dots,\mathbf{x}_{m}\}\) の集合を \(\{\mathbf{x}_{i_1},\dots,\mathbf{x}_{i_k}\}\) とすると、 \[ \int_C \omega = \sum_{j=1}^k \int_{C_{i_j}}\omega \] が成り立つ。右辺の符号は曲線の向きの取り方に一致させる。 実際、\(C\) の内部に含まれる各 \(\mathbf{x}_{i_j}\) の周りに互いに交わらない小円 \(\tilde C_{i_j}\) を取り、\(C\) の内部からこれらの小円の内部を穴として取り除くと、得られる領域 \(D\) は \(\omega\) が滑らかな領域上で定義される有界領域となる。ストークスの定理を \(D\) と \(\omega\) に適用すると、境界上の積分の和はゼロであり、境界は \(C\) と各 \(-\tilde C_{i_j}\) の和であるから上の関係式が得られる。 いま、\(\Phi(\omega)=0\) の仮定と補題から、任意の閉曲線 \(C\subset U\) に対して \[ \int_C\omega=0 \] が従う。すなわち、\(\omega\) は任意の閉曲線に沿って積分すると 0 になる。
ここで、任意に点 \(x_0\in U\) を選ぶ。任意の点 \(x\in U\) に対して、\(x_0\) から \(x\) までの滑らかな曲線 \(\alpha\) を取って \[ h(x) := \int_{x_0}^x \omega := \int_\alpha \omega \] と定める。上で任意の閉曲線の積分が 0 であることを示したので、経路依存性がないことがわかるから、写像 \(h:U\to\mathbb{R}\) は定義される。最後に、\(h\) が滑らかであり \(dh=\omega\) であることを示す。 任意の点 \(p\in U\) を取る。\(U\) は開集合であるから、\(p\) の十分小さな近傍として、 \(\mathbf{x}_1,\dots,\mathbf{x}_m\) のいずれも含まない円板 \(V\subset U\) を取ることができる。 このとき \(V\) は単連結である。 \(\omega\) は \(U\) 上で定義された閉 1-形式、すなわち \(d\omega=0\) を満たすから、 特に \(V\) 上でも閉である。したがって、ポアンカレの補題より、 ある滑らかな関数 \(h_V\in C^\infty(V)\) が存在して $V$ 上で \[ dh_V=\omega\] が成り立つ。 一方、すでに定義した関数 \(h\) は、点 \(x_0\) からの線積分によって与えられている。 点 \(p\in V\) を固定し、\(x_0\) から \(p\) までの経路を \(x_0\) から \(V\) 内のある固定された点までの経路と、 その後 \(V\) 内を通る経路とに分解すると、微分積分学の基本定理(っぽいやつ...?)より \[ h(p)=h_V(p)+C \] となる定数 \(C\in\mathbb{R}\) が存在する。 この定数 \(C\) は \(p\) に依らず \(V\) 上で一定であるから、 \(h\) と \(h_V\) は \(V\) 上で定数分だけ異なる関数である。 したがって両者の微分は一致し、$V$ 上で \[ dh = dh_V = \omega\] が従う。 いま、点 \(p\in U\) は任意であったから、以上の議論は \(U\) の任意の点の近傍で成り立つ。 よって \(h\) は \(U\) 上で滑らかな関数であり、 その全微分は \[ dh=\omega \] を満たす。
結論
以上より、準同型定理を用いることで、 $$W = Z^1(U)/B^1(U) \cong \mathbb{R}^m$$ であるから、$\dim(W) = \dim(\mathbb{R}^m) = m$ を得る。$\square$