群上のフーリエ変換に関する反転公式
有限群の表現論 - 有限アーベル群上のフーリエ変換
今日は有限アーベル群上のフーリエ変換の反転公式を表現論を使って少しだけ楽に証明します。
反転公式
この記事では、$G$ を有限アーベル群、$\text{Map}(X,Y)$ を $X$ 上で定義された $Y$ に値をとる関数全体、$\mathcal{C}(G) \subseteq \text{Map}(G,\mathbb{C})$ を $G$ 上の類関数全体と定めます。 また、$G$ に対して、$\hat{G} = \text{Hom}(G,\mathbb{C}^{\times})$ を $G$ から $\mathbb{C}^{\times}$ への準同型全体とします。 また、表現はすべて $\mathbb{C}$ 上のものを考えることとします。 また、$\text{Map}(G,\mathbb{C}^{\times})$ の標準内積を \(\displaystyle \langle\varphi,\psi\rangle=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\varphi(g)\overline{\psi(g)}\) で定めます。
$f \in \text{Map}(G,\mathbb{C})$ に対して、以下で定まる $\hat{f} \in \text{Map}(\hat{G}, \mathbb{C}^\times)$ を$f$ のフーリエ変換という。 $$\hat{f}(\chi) = \sum_{x \in G} f(x) \bar{\chi}(x)$$
$G$ が有限群であるから、$G$ の任意の元 $g$ は有限の位数を持ちます。 これにより、$g$ の送り先は $1$ の $\text{ord}(g)$ 乗根であるから、$\hat{G}$ も有限集合であることが分かります。 したがって、上で定義されたフーリエ変換は有限和となり、$\mathbb{R}$ 上のフーリエ変換で考える必要があった収束の問題などは群上のフーリエ変換では回避することができます。
$f \in \text{Map}(G,\mathbb{C})$ に対して以下が成り立つ。 $$f(x) = \frac{1}{|G|} \sum_{\chi \in \hat{G}} \hat{f}(\chi)\chi(x)$$
群論の初等的な計算を行うことによっても証明することができますが、今回は有限群の表現論を用いて簡潔に証明したいと思います。 表現論を用いない場合、$|G| = |\hat{G}|$ を証明するのが少々大変かもしれません。 例えば、有限生成アーベル群の構造定理などを使用する方針が考えられるでしょう。
以降の証明では、指標に関する基本的な事実を認めています。具体的には、指標が正規直交基底を成すことと、既約表現の次元の平方和が $|G|$ に一致することを用いました。
$G$ はアーベル群であったからその任意の共役類は1元集合であるので、$\mathcal{C}(G) = \text{Map}(G,\mathbb{C})$ である。 $G$ の既約表現の同値類の代表系をある正の整数 $k$ を用いて $V_1,\cdots,V_k$ とおく。 それぞれの指標を $\chi_1,\cdots,\chi_k$ とすると、これは $\mathcal{C}(G) = \text{Map}(G,\mathbb{C})$ の正規直交基底をなす。 また、後述の補題3より、$V_1,\cdots,V_k$ は一次表現であるから、$\hat{G} = \{\chi_1,\cdots, \chi_k\}$ である。 以上より、$\hat{G}$ は $\text{Map}(G,\mathbb{C})$ の正規直交基底である。このことから、 \begin{align*} \frac{1}{|G|} \sum_{\chi \in \hat{G}} \hat{f}(\chi)\chi(x) & = \frac{1}{|G|}\sum_{\chi \in \hat{G}}\left( \sum_{x \in G} f(x) \bar{\chi}(x)\right)\chi(x) \\ & = \sum_{\chi \in \hat{G}}\left( \frac{1}{|G|}\sum_{x \in G} f(x) \bar{\chi}(x)\right)\chi(x) \\ & = \sum_{\chi \in \hat{G}}\langle f,\chi\rangle\chi(x) \\ & = f(x) \end{align*} を得る。以上より、$\displaystyle f(x) = \frac{1}{|G|} \sum_{\chi \in \hat{G}} \hat{f}(\chi)\chi(x)$ である。$\square$
有限アーベル群の既約表現が一次に限られることを念のため証明しておきます。
有限アーベル群 $G$ の既約表現は一次元の表現である。
$|G|=k$ とおく。$G$ はアーベル群であるから、任意の共役類は1元集合となり、$G$ の共役類の個数は $k$ 個となる。 また、$G$ の既約表現の個数は $G$ の共役類の個数に等しいから、$G$ の既約表現の個数は $k$ 個である。 すなわち、$G$ の既約表現の同値類の代表系を $V_1,\cdots,V_k$ とおける。 いま、 $$|G| = \sum_{i=1}^{k}(\dim{V_{i}})^2$$ が成り立つ。各 $i$ について、$\dim{V_{i}}$ は正の整数であるから、$\dim{V_{i}} = 1$ となるほかない。 これより、$G$ の既約表現は一次元である。$\square$
実は、この補題は有限群に限る必要がありません。 このことも述べておきましょう。
有限とは限らないアーベル群 $G$ の有限次元既約表現は一次元の表現である。
$V$ を $G$ の $\mathbb{C}$
上の有限次元既約表現とする。
Schurの補題より、$\text{End}_G(V) = \mathbb{C}
\cdot \text{Id}_V$ である。 いま、任意の $g \in
G$ に対して、 $$\forall h \in G, \rho(g)\rho(h)
= \rho(gh) = \rho(hg) = \rho(h)\rho(g)$$
であるから、$\rho(g) \in \text{End}_G(V)$
である。これより、ある $\lambda_g \in
\mathbb{C}$ が存在して、 $\rho(g) = \lambda_g
\text{Id}_V$ が成り立つ。
ここで、$\dim(V) \geq 2$ であると仮定する。
このとき、$V$ の非自明な1次元部分空間 $W$
が存在する。 任意の $g \in G$ に対して、
$\rho(g)(W) = \lambda_g \text{Id}_V(W) \subseteq
W$ であるから、$W$ は $V$
の$G$-不変部分空間である。ところが、これは $V$
が既約表現であることに矛盾する。
以上より、$\dim{V} = 1$ である。$\square$
上で述べた通り、愚直な計算でも反転公式の成立は確認できますが、表現論を用いるとより群上のフーリエ変換の定義が明瞭に捉えられるのではないでしょうか。 特に、なぜアーベル群だけを考えるのかに説明を与える点で優れていると思います。 簡潔に述べれば、それはアーベル群の既約表現は一次表現であることと、それらが $\text{Hom}(G,\mathbb{C}^\times)$ の正規直交基底を与えるからでしょう。 なお、より一般に局所コンパクトアーベル群への一般化が存在するそうで、これも表現論的立場からアプローチできるそうです。