有限群の表現論におけるバーンサイドの補題の応用例
有限群の表現論 - 指標の理論
今日はバーンサイドの補題の数え上げ以外への応用例として、有限群の表現論の命題を紹介します。
バーンサイドの補題
まずは、バーンサイドの補題を紹介し、証明しておきます。前提とする知識は、群作用に関する基本的なことがらのみです。 後半の表現論のパートでは、指標の基本的な事項を理解していれば十分に読める内容になっています。
有限群 $G$ が集合 $X$ に作用しているとする。$X$ の軌道の個数を $m$ とし、$g \in G$ に対して、集合 $X^{g} \subseteq X$ を $X^{g} = \{x\in X \mid g\cdot x = x\}$ と定める。 このとき、以下が成り立つ。 $$m = \frac{1}{|G|} \sum_{g \in G} |X^{g}|$$
バーンサイドの補題は、コーシー・フロベニウスの定理とも呼ばれています。 その歴史については、少しだけwikipediaに載っています。 証明の方針は、ダブルカウントの利用です。あとは、作用に関する強力な公式である軌道-固定部分群定理を用います。
$x \in X$ に対して、その固定部分群を $G_x,$ 軌道を $\text{orb}(x)$ と表記する。いま、 $$\sum_{g \in G} |X^{g}| = |\{(g,x) \in G \times X \mid g\cdot x = x\}| = \sum_{x \in X}|G_x|$$ である。軌道-固定部分群定理より、$\displaystyle|G_x| = \frac{|G|}{|\text{orb}(x)|}$ であったので、 $$\sum_{x \in X}|G_x| = \sum_{x \in X}\frac{|G|}{|\text{orb}(x)|} = |G|\sum_{x \in X}\frac{1}{|\text{orb}(x)|}$$ である。$X$ を軌道分解の代表系 $x_1,\cdots,x_m$ を用いて、$\displaystyle X = \bigsqcup_{i=1}^{m} \text{orb}(x_i)$ と非交和に分解する。 このとき、 $$|G|\sum_{x \in X}\frac{1}{|\text{orb}(x)|} = |G|\sum_{i = 1}^{m} \sum_{x \in \text{orb}(x_i)} \frac{1}{|\text{orb}(x)|} = |G|\sum_{i = 1}^{m} \sum_{x \in \text{orb}(x_i)} \frac{1}{|\text{orb}(x_i)|} = |G|\sum_{i = 1}^{m}1 = m|G|$$ であるので、結局 $\displaystyle m = \frac{1}{|G|} \sum_{g \in G} |X^{g}|$ が得られた。$\square$
この定理は、軌道の個数が $g \in G$ によって固定される $X$ の元の個数の平均で与えられることを主張しています。 これを用いれば、回転や反転などの変換、すなわち群作用によって一致するものを同一視するような数え上げを行うことができます。 実際、この同一視は作用 $G$ による同値類と見做せ、求める個数は軌道の個数と一致します。 こういった数え上げへの応用例は、様々な場所で紹介されていますから、 ここでは、数え上げへの応用ではなく純粋数学的な応用を紹介したいと思います。
応用例
バーンサイドの補題は有限群の表現論における指標と密接に関連しています。このことを紹介します。
有限群 $G$ が有限集合 $X$ に作用しているとし、$G$ の $X\times X$ への作用を $g\cdot(x,y) = (g\cdot x , g\cdot y)$ で定めたとき、$X\times X$ の軌道は対角集合とその補集合となったとする。 このとき、$G$ から $X$ への作用による $G$ の正則表現 $(V_{\text{reg},\rho})$ について、$\rho$ はある既約表現 $\theta$ と自明表現 $1$ によって、$\rho = \theta \oplus 1$ と分解できる。
$V_{\text{reg}}$ は $X$ の元で添え字づけられた基底を持つ $\mathbb{C}$ 上の線形空間 $\mathbb{C}[X]$ のことであり、$\rho(g) \in \text{GL}(V_{\text{reg}})$ を $\rho(g) (\mathbf{v}_h) = \mathbf{v}_{g \cdot h}$ を線型に拡張したものとして定めます。 また、$G$ 上の($\mathbb{C}$ 上に値を持つ)類関数上の標準内積を $\displaystyle\langle\varphi,\psi\rangle=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\varphi(g)\overline{\psi(g)}$ で定めます。
$\chi$ を $\rho$ の指標とする。一般に正則表現の指標は、$g$ で固定される $X$ の個数であった。\[ \langle\chi,\chi\rangle =\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\#\{x\in X\mid g\cdot x=x\}^2 =\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\#\{(x,y)\in X\times X\mid g\cdot (x,y)=(x,y)\} \] が成り立つ。バーンサイドの補題より右辺は $G$ の $X\times X$ 上の軌道の個数に等しい。仮定より、$X\times X$ の軌道は対角集合 \[ \Delta=\{(x,x)\mid x\in X\} \] とその補集合の二つであるから、$ \langle\chi,\chi\rangle=2$ を得る。 また、$X \times X $ は対角集合を軌道に持つから、$G$ の $X$ への作用は推移的であり、\[ \langle\chi,1\rangle =\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\#\{x\in X\mid g\cdot x=x\} \] を得る。これは再びバーンサイドの補題より $G$ の $X$ 上の軌道の個数に等しく、$ \langle\chi,1\rangle=1 $ が従う。 いま、有限群の有限次元表現を考えていたから、マシュケの定理により自明表現 $V_{\text{triv}}$ は不変直和因子である。すなわち、$V_{\text{reg}} = V_{\text{triv}} \oplus W$ となるような部分表現 $W$ が存在する。$\chi_W$ を $W$ の指標とすれば、$\chi = 1 + \chi_W$ である。 $\langle\chi,\chi\rangle = 2, \langle\chi, 1\rangle = 1$ と併せて $1,\chi_W$ は正規直交系を成すことがわかる。これより、$W$ に対応する表現を $\theta$ とすれば、$\rho = 1 \oplus \theta$ と分解できることがわかる。$\square$