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位数5616の単純群の視覚化

群論 - 有限単純群の分類

 先日投稿した有限単純群の分類史の解説動画にて位数5616の単純群をアニメーションにして載せました。 折角なので、位数5616の単純群をどう視覚化するかについて記事を書いてみたいと思います。

PSL(3,3)の基本事項

 まずは、位数5616の単純群の正体を明かしましょう。以下では、特に断りのない限り \(K\) を体、\(n\) を正整数、\(M_n(K)\) を \(K\) 上の \(n \times n\) 行列全体の集合とします。

定義1.一般線型群・特殊線型群

一般線型群 \(\mathrm{GL}(n,K)\) 、特殊線型群 \(\mathrm{SL}(n,K)\) をそれぞれ以下で定まる群とする。 \[ \mathrm{GL}(n,K) := \{A \in M_n(K) \mid \det A \neq 0\} , \quad \mathrm{SL}(n,K) := \{A \in \mathrm{GL}(n,K) \mid \det A = 1\} \]

 $\mathrm{SL}(n,K)$ は行列式写像 \(\det : \mathrm{GL}(n,K) \to K^\times \) の核になっていることも併せて述べておきましょう。 この特殊線型群から射影特殊線型群を構成します。

定義2.射影特殊線型群

 射影特殊線型群 $\mathrm{PSL}(n,K)$ を以下で定まる群とする。 ただし、$Z(G)$ は剰余群 $G$ の中心である。\[ \mathrm{PSL}(n,K) := \mathrm{SL}(n,K) / Z(\mathrm{SL}(n,K)) \]

 中心 $Z(\mathrm{SL}(n,K)) := \{\,\lambda I_n \in \mathrm{SL}(n,K) \mid \lambda \in K^\times \,\}$ は当然正規部分群になっているので、剰余群を考えることができて、その商こそが射影特殊線型群です。 「射影」と呼ぶ理由は、この群が射影空間上の変換として自然に作用することに由来します。 GLの中心がちょうどスカラー行列であったことを思い出すと、射影空間の定義とそこはかとなく類似している気がしてくるのではないでしょうか。

事実3

位数5616の単純群は同型を除いて一意的であり、特に $\text{PSL}(3,\mathbb{F}_3)$ に同型である。

 $\text{PSL}(3,\mathbb{F}_3)$ のことは $\text{PSL}(3,3)$ とも表記します。 この事実の証明はもちろん難しいので行いません。 ここでは、いくつかの事項に絞って確認作業を行いたいと思います。

命題4

$\text{PSL}(3,\mathbb{F}_3)$ の位数は5616である。

 一般に、有限体 $\mathbb{F}_q$ 上の一般線型群 $\text{GL}(n,\mathbb{F}_q)$ の位数は、各列ベクトルが線型独立になる選び方を考えることで、 $$|\text{GL}(n,\mathbb{F}_q)| = (q^n - 1)(q^n - q)\cdots(q^n - q^{n-1})$$ と計算できる。いま、$n=3, q=3$ であるから、 $$|\text{GL}(3,\mathbb{F}_3)| = (3^3 - 1)(3^3 - 3)(3^3 - 3^2) = 26 \times 24 \times 18 = 11232$$ となる。準同型定理から、$|\text{Im(det)}|\cdot |\text{Ker(det)}| = |\text{GL}(3,\mathbb{F}_3)|$ であるので、 $$|\text{SL}(3,\mathbb{F}_3)| = \frac{\text{GL}(3,\mathbb{F}_3)}{|\mathbb{F}_3^\times|} = \frac{11232}{2} = 5616$$ を得る。

 射影特殊線型群 $\text{PSL}(3,\mathbb{F}_3)$ は $\text{SL}(3,\mathbb{F}_3)$ をその中心 $Z$ で割った剰余群である。行列 $A \in Z$ は任意の $B \in \text{SL}(3,\mathbb{F}_3)$ と可換($AB=BA$)である。特に、対角成分が $1$ で $(i,j)$ 成分が $1$ である基本行列 $E_{ij}$ と可換であるという条件から、$A$ の非対角成分はすべて $0$ であり、対角成分はすべて等しいことが導かれる。すなわち、中心 $Z$ の要素はスカラー行列 $aI$ に限られる。いま行列のサイズは $n=3$ であるため、$\det(aI) = a^3 = 1$ が条件となる。しかし、$a \in \mathbb{F}_3^\times$ において乗法群の位数は $q-1=2$ であるため、方程式 $a^3=1$ の解の個数は $\gcd(3,2)=1$ 個(すなわち $a=1$ のみ)である。よって中心 $Z$ は単位行列のみからなる自明な群であり、$|Z|=1$ となる。したがって、 $$|\text{PSL}(3,\mathbb{F}_3)| = \frac{|\text{SL}(3,\mathbb{F}_3)|}{|Z|} = \frac{5616}{1} = 5616$$ が得られる。$\square$

 この議論から、$\text{PSL}(3,\mathbb{F}_3) \cong \text{SL}(3,\mathbb{F}_3)$ もわかります。

命題5

$\text{PSL}(3,\mathbb{F}_3)$ は射影平面 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ に作用する。

 ベクトル空間 $V = \mathbb{F}_3^3$ の非零ベクトル $v, w$ に対して、あるスカラー $\lambda \in \mathbb{F}_3^\times$ が存在して $v = \lambda w$ となるとき $v \sim w$ と同値関係を定めます。この同値類を $[v]$ と表記すると、$\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ はこの同値類の集合 $(V \setminus \{0\}) / \sim$ (すなわち $V$ の $1$ 次元部分空間の全体、あるいは直線束全体)として定義できます。 今回は、この定義を採用します。

 $\text{PSL}(3,\mathbb{F}_3)$ と同型な特殊線型群 $\text{SL}(3,\mathbb{F}_3)$ が $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ に作用することを示す。$A \in \text{SL}(3,\mathbb{F}_3)$ と $[v] \in \mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ に対し、作用を $A\cdot [v] = [Av]$ と定義する。これが代表元 $v$ の取り方によらず well-defined であることを確認する。$v \sim w$ (すなわち $v = \lambda w$)とすると、$A$ の線型性から $Av = A(\lambda w) = \lambda(Aw)$ となるため $Av \sim Aw$ であり、$[Av] = [Aw]$ が成り立つ。また、単位行列 $E$ に対して $E \cdot [v] = [Ev] = [v]$ であり、$A, B \in \text{SL}(3,\mathbb{F}_3)$ に対して $A \cdot (B \cdot [v]) = A \cdot [Bv] = [A(Bv)] = [(AB)v] = (AB) \cdot [v]$ も成り立つ。よって、これは確かに $\text{SL}(3,\mathbb{F}_3)$ の群作用である。$\square$

 この時点で、$\text{PSL}(3,\mathbb{F}_3)$ を視覚化する一つの案として $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ への作用を見せるというものが考えられますね。 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ 自体が射影平面なので視覚化が難しいと思うかもしれませんが、点が有限個の場合には明確に視覚化することができます。 簡潔にアニメーション化したいときには、この手法を使うのはアリだと思います。

デザインを用いる

 より派手に視覚化を行いたいときには、本質的には同じだが見た目がだいぶ異なる別のアプローチが使えます。 デザインの自己同型群として視覚化する方法です。 (デザインは、数学の概念であって、グラフィックスなどの話ではないです。)

 デザイン論についての詳細は、他のサイトや書籍を参照したほうが良いかもしれませんが、とりあえず最低限の概念を導入したいと思います。

定義6.デザイン

 $t, v, k, \lambda$ を $v > k \ge t \ge 1$ を満たす整数とする。要素数が $v$ である有限集合 $X$ と、その $k$ 点部分集合の族 $\mathcal{B}$ の組 $(X, \mathcal{B})$ が以下の条件を満たすとき、これを $t-(v, k, \lambda)$ デザインという。

 「$X$ の任意の $t$ 個の要素からなる部分集合は、ちょうど $\lambda$ 個の $\mathcal{B}$ の要素に部分集合として含まれる。」

 有限集合 $X$ の元を「点」、族 $\mathcal{B}$ の元を「ブロック」とか「直線」と見なすことで幾何学的な構造を与えられると思うことができます。 特に $t=2$ の場合が代表的で、前述の射影平面 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ は、任意の2点を通る直線がただ1つ存在し、各直線上には4つの点が乗るため、$v=13, k=4, \lambda=1$ とした $2-(13, 4, 1)$ デザインと表現できます。

定理7

 有限射影平面 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ は $2-(13, 4, 1)$ デザインをなす。

 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ の点の集合を $X$、直線の集合を $\mathcal{B}$ として、これが $2-(13, 4, 1)$ デザインの条件を満たすことを順に示す。

 (1) 点の総数 $v=13$:
 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ の点は、ベクトル空間 $V = \mathbb{F}_3^3$ の $1$ 次元部分空間と1対1に対応する。$V$ には $3^3 - 1 = 26$ 個の非零ベクトルが存在し、$1$ つの $1$ 次元部分空間には $3 - 1 = 2$ 個の非零ベクトルが含まれる。したがって、点の総数 $v$ は $v = \frac{3^3 - 1}{3 - 1} = \frac{26}{2} = 13$ である。

 (2) 各ブロックに含まれる点の数 $k=4$:
 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ の直線(ブロック)は、$V$ の $2$ 次元部分空間に対応する。$1$ つの $2$ 次元部分空間には $3^2 - 1 = 8$ 個の非零ベクトルが含まれる。これらが構成する $1$ 次元部分空間(射影平面上の点)の数は $k = \frac{3^2 - 1}{3 - 1} = \frac{8}{2} = 4$ 個である。よって、任意の直線はちょうど $4$ つの点を含む。

 (3) 任意の2点を含むブロックの数 $\lambda=1$($t=2$):
 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ 上の任意の異なる $2$ 点を選ぶ。これらは $V$ における異なる2つの $1$ 次元部分空間に対応し、それぞれを生成する非零ベクトル $u, w$ は線型独立である。線型代数の基本性質より、2つの線型独立なベクトル $u, w$ が生成する $2$ 次元部分空間はただ1つ存在する。この $2$ 次元部分空間は射影平面上のただ1つの直線に対応する。したがって、任意の異なる $2$ 点を通る直線はただ1つ存在し、$\lambda = 1$ となる。

 以上により、$\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ は要素数 $13$、各ブロックのサイズ $4$、任意の $2$ 要素がちょうど $1$ つのブロックに含まれる構造を持つため、$2-(13, 4, 1)$ デザインをなす。$\square$

定義8.デザインの同型

 2つの $t-(v, k, \lambda)$ デザイン $(X, \mathcal{B})$ と $(X', \mathcal{B}')$ が同型であるとは、全単射 $f: X \to X'$ が存在し、任意のブロック $B \in \mathcal{B}$ に対して $f(B) = \{f(x) \mid x \in B\}$ が $\mathcal{B}'$ のブロックとなり、これが $\mathcal{B}$ と $\mathcal{B}'$ の間の全単射を与えることである。

 一般のパラメータを持つデザインについては、同型を除いて一意的とは限らず、同じパラメータであっても互いに同型でない複数のデザインが存在し得ます。しかし、今回議論しているパラメータ $2-(13, 4, 1)$ の場合は例外的に構造が強く制約され、同型を除いてただ1つに定まります。

定理9

 $2-(13, 4, 1)$ デザインは同型を除いて一意に存在する。すなわち、任意の $2-(13, 4, 1)$ デザインは有限射影平面 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ と同型である。

 事実としても良かったのですが、念のため証明らしきものを置いておきます。

 任意の $2-(13, 4, 1)$ デザインを $(X, \mathcal{B})$ とする。デザインの基本的な関係式 $bk = vr$ ($b$ はブロックの総数、$r$ は各点を含むブロックの数)および $r(k-1) = \lambda(v-1)$ に各パラメータを代入する。

 後者の式より $r(4-1) = 1(13-1)$ となり、$3r = 12$ すなわち $r = 4$ を得る。これを前者の式に代入すると $b \cdot 4 = 13 \cdot 4$ となり、$b = 13$ を得る。点の数 $v$ とブロックの数 $b$ が等しい($v=b=13$)ため、このデザインは「対称デザイン」である。

 対称デザインの性質として、任意の2つの異なるブロックはちょうど $\lambda$ 個の点を共有する。いま $\lambda = 1$ であるから、「任意の異なる2点はただ1つのブロック(直線)を決定し、任意の異なる2つのブロック(直線)はただ1つの交点を持つ」ことになり、各直線上には $k=4$ 個の点が乗る。これはまさに位数 $n = k-1 = 3$ の有限射影平面の公理を満たしている。

 有限射影平面に座標系を導入すると、その座標は「平面三項環(planar ternary ring)」と呼ばれる代数系をなす。特に位数が素数 $p$(今回は $p=3$)の平面三項環は、有限体 $\mathbb{F}_p$ に同型であることが知られている。有限体上の射影平面はデザルグの定理を満たす「デザルグ的射影平面」となり、標準的な構成である $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ と同型になる。

 (※より一般に、位数 $n \le 8$ の有限射影平面の分類問題において、$n=2, 3, 4, 5, 7, 8$ の場合は同型を除いて一意であることが証明されている。)

 したがって、$2-(13, 4, 1)$ デザインは有限射影平面 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ と同型なもの以外には存在せず、同型を除いて一意的に定まる。$\square$

 以上の事実により、$\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ のかわりに $2-(13, 4, 1)$ デザインに対するアニメーションを描画しても良いことになります。 こうすると、ある程度派手なアニメーションが描けますね。 また、以下の視覚化の上では影響がないですが、以下の事実も重要なので紹介しておきます。

事実10

 有限射影平面 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)$ の自己同型群(共線変換群?)は、射影特殊線型群 $\text{PSL}(3, \mathbb{F}_3)$ と同型である。すなわち、以下が成り立つ。$$\text{Aut}(\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_3)) \cong \text{PSL}(3, \mathbb{F}_3)$$

 つまり、$\text{PSL}(3,\mathbb{F}_3)$ は $2-(13, 4, 1)$ デザインの自己同型群だと思うこともできるので、その気持ちで視覚化しても良いですね。 僕はこの心持ちでアニメーションを作成しました。 実際の実装は有限単純群の分類史の解説動画の6:55で見ることができます。たぶん、正しく視覚化できているはず...。 これで不備があったらめっちゃダサい。