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明瞭な日本語をしゃべろう

意思疎通 — 適切な日本語の運用

正確に伝達するのは難しい

 自分が考えていることを正確に相手に伝達することは難しいです。 この記事では、正確に自分が考えていることを伝えるために私が意識していることを述べたいと思います。 正確な意思疎通が難しい理由は、大きく二つあると思います。 一つは日本語(あるいは自然言語)の複雑さ、もう一つは前提がうまく共有できていないことです。

 日本語の難しさにおいては、日々感じていることとは思いますが、 有名な例である「頭が赤い魚を食べる猫」を思い出せばそのカオスっぷりを改めて認識できると思います。 この文章に至っては、そのままの状態で使用すると口頭でも書き起こして伝えても齟齬を回避するのは難しいでしょう。

 前提の共有不足はより深刻です。 以下に挙げるように、様々な角度から攻め立ててきます。

  • 話し手が用語の定義を共有していない
  • 自分と相手の常識が異なっていた
  • 自分が見積もっていた認知負荷と相手が感じた認知負荷が異なった

 こういった曖昧さや齟齬の原因をできるだけ排除して、適切に意思疎通をできるように日々精進したいところです。

安全な日本語の運用

 まずは、文法上の曖昧さを認識した上で配慮すれば解決できる問題です。

 口頭、記述双方において今から表現しようとしている文章が一意的に解釈可能かどうかは常に気にかけてください。 特に、次の3種類の曖昧さを解消するようにしてください。

  • 修飾関係(区切る場所)による曖昧さ
  • 指示語が指す内容が定まらないことによる曖昧さ
  • 抽象的な言葉を用いることによる曖昧さ

 もし齟齬が生まれそうなら例示や補足をするなどして、情報を総合すれば一意的に解釈可能となるように努めてください。 文法上のあいまいさが残る場合、口頭なら抑揚を使うことも有効ですが、極力言い方を変えるか再度適切に述べて補足するようにしてください。

 少し例を挙げましょう。「8時10分前」などはあいまいな表現です。 8時の10分前、すなわち7時50分付近を指す言葉なのか、8時10分の前を指す言葉なのか解釈が分かれる可能性があります。 これは修飾関係(区切る場所)による曖昧さの一種です。 もっとも、上で挙げた「頭が赤い魚を食べる猫」には到底及びませんが...。

 指示語についての例も挙げましょう。 「Aさんを知っていますか?」という質問に対しての「知っています。Bさんの弟で、彼はとても背が高いですよね。」という回答は曖昧さを孕みます。 回答における「彼」がAさんのことかBさんのことか定まらないです。 話し手と聞き手で指示語の内容に齟齬が生じうる表現は一意的に解釈可能とはいいがたいです。

 最後に抽象的な言葉を用いることによる曖昧さの例を挙げます。 「しっかり」とか「よく」などの度合いを表す言葉は個々人の間隔に大きく依存します。 話し手は「しっかり」やったつもりでも、聞き手からしたら「しっかり」とやったとは言えないというケースが考えられます。 できるだけ定量的に、具体的に述べるようにしましょう。

 また、何かを口頭ではなく文章で記述する場合、無駄がないコンパクトな文章を心がけると良いと思います。 その文章がなくなっても情報が減らない文章は極力省くようにすると認知負荷が減って読みやすいです。 やや面倒ですが、漢字表記と仮名表記の統一や、用語の統一なども心がけてください。

前提の共有

 こちらは日本語の正しい運用と違って、一人きりで完全に改善しきることが難しいです。 他人とのコミュニケーションの中で柔軟に対応していくほかありません。

 (前提として、専門用語は正しく運用するようにしてください。独自の用語を導入する場合、より適切な既存の言葉がないか検討するようにしてください。)

 専門用語はもちろんのこと、一般的でない使い方をする言葉があれば説明するようにしましょう。 議論の出発点を明確にすることで、相手と建設的な議論ができます。 前提を明示することで、具体的な指摘や質問を受けやすくなります。 また、聞き手側も必要だと感じたら用語の意味を確認するようにしてください。

 また、用語に加えて、「常識」と言われるようなことも齟齬が生まれる恐れがある場合は説明するようにしましょう。 「常識的に考えてわかるでしょう」というスタンスは避けましょう。 話し手と聞き手は大抵の場合において立場が異なるし、育ちや生きてきた年数も異なります。 ですので、自分の中で常識だと思っていても明示するようにしましょう。

 少々込み入った例ですが、「5枚のカードに1から5までの数字が描かれている」という表現は改良の余地があります。 通常の数学の文章題などの文脈であれば、「5枚のカードに1から5のうちの整数が一つ書かれていて、どの数字に対してもちょうど一対一に対応するカードが存在する」という状況であることが読み取れますが、 「5枚のカードすべてに1から5までの5つの数字が描かれている」という可能性を排除しきれていません。

 別の例も挙げましょう。 「PならばQ」である旨を伝えたときに、「QならばP」も忖度して読み取ってくれる人もいれば、「QならばP」は読み取ってくれない人もいます。 文脈でわかる場合には構いませんが、明示的に伝えれると理想だと思います。

 内容面ではない個所に関する前提の共有が不足したことで発生する不明瞭さも存在します。 話し手と聞き手での認知負荷の感じ方の違いなどがその最たる例です。 認知負荷とは、その話を聞いて理解するまでにかかる大変さ、時間、ステップ数などのことを意図しています。

 たいていの場合において、話し手が想定する認知負荷は聞き手が感じる認知負荷よりも軽いのではないかと思います。 話し手の中には既に完成した論理の枠組みがあって、それを参照しながら話すことができます。 しかし、聞き手がその話を初めて聞く場合、何も指針となる情報がありません。 したがって、今後話がどのような方向に向かっていくのかを予測できず、認知負荷が極端に高まります。 行く先のわからない話は聞き手の不安を煽ります。

 ですから、認知負荷の低い方法で伝達するようにしましょう。

認知負荷を下げる工夫

 話し手が一意的に解釈可能かつ前提の定義を怠らなかったとしても、自分が考えていることが伝わらない可能性はあります。 われわれ人間は話を聞いてすぐに一発で理解できるとは限らないです。 上でも述べた通り、人によって認知負荷は異なり、特に、聞き手のほうが認知負荷が高いはずなのでそのことを意識して話す必要があります。

 前提として、自分の頭の中で考えていることを整理してから話すようにしましょう。 整理しないまま話し始めると著しくわかりにくい文章が出てきます。

 具体的に、最初に話の道筋、大まかな流れを述べましょう。 この際、結論ありきのような話し方にならないように注意しましょう。 新たな概念を提示する場合には話の中で何度か説明して、復習の機会を設けましょう。

特に気を付けたい場面

 もちろん、いつでもどこでも明瞭な日本語を話す必要はありません。 最後に、明瞭に伝達することが必要不可欠な場面を二つ紹介して終わりにします。

 説明するときと、依頼するときです。 どちらもその場面において明瞭に伝達することが重要であることは明らかだと思います。 特にこれらの場面において注意したいことを述べます。

 他人に物事を説明するときは、相手の持っている情報量が自分と比べて著しく少ないという点を意識するべきです。 先ほども述べた認知負荷の違いですね。 そのほか、特に気を付けたいのが例示を主軸にして説明しないということです。 「この概念を、○○を例にして説明します」はやめましょう。 最初に話の道筋、大まかな流れを述べましょう。 「この概念は○○と説明できます。具体例を挙げてその中身を確認していきましょう。」のように展開するとよいと思います。

 他人に何かを依頼するときは情報の欠落を防いでください。自分が相手にお願いする立場であっても、相分が相手に命令する立場であっても基本的に変わりません。 その一連の依頼を遂行するにあたって必要な情報はすべてもれなくできるだけ具体的に記述するようにしてください。 特に、依頼された側が行う必要があること以外に、必要がないことも明示しておけるとよいでしょう。 (必要のないことについて、すべてを挙げることはもちろん不要ですし冗長です。ですが、相手がすべきかどうか迷いうる場合には必要のないことを明示してあげると親切です。) 例えば、完成品のファイル名に指定がない場合、何も明記しないのではなく、任意である旨を明記するようにしましょう。

 これらはどれも当たり前のように見えるかもしれませんが、案外難しかったりします。 是非、適切に実践して明瞭な意思伝達ライフを堪能しましょう。