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ヒューマニズムはどう定義され、どう養われるべきか?

文学 — 宮沢賢治

 ヒューマニズムとは何でしょうか。 インターネットで検索すると、多様な説明がなされています。 特に、宗教という概念と関連した説明がなされます。 しかし、より広く定義できる気がしたので、宮沢賢治の作品を通じながら改めてヒューマニズムを定義しなおしてみたいと思います。

ヒューマニズムの定義

 まずは上で提案した定義について説明します。 「人間を根拠として」は、神や形而上の理念のような外的権威ではなく、人間が経験しうること、理解しうること、判断しうることだけを基準とすることを意図しています。 「人間の言葉で」は、記述、解釈、物語化といった言語的操作によって世界を再構成することを指します。 そして「表現しなおす営み」とは、その再構成された世界像を、共有可能な形で提示し、批判・議論・修正に開いておく継続的な実践です。 この定義の強みは「人文学・文学文化への献身」や「世俗の認識」を一つの軸のもとに統合できる点にあるのではないでしょうか。 人文学・文学文化はまさに「人間の言葉で世界を表現しなおす営み」であり、世俗の認識は「人間を根拠として」そのものです。 ヒューマニズムは外的権威からの自律と、人間の有限な知的資源の使用と、開かれた議論可能性という三層を一体として説明できるという可能性を示唆できればと思います。

 もちろん、人間の言語で表現することはそれ自体が人間中心主義的で危ういようにも感じられます。 世界はもっと複雑で、言語はそれを切り落とすし、非人間の世界は私たちの認識をはるかに超えているかもしれません。 しかし、言語を疑いすぎて、実態のない抽象概念や外的権威を頼りに考察しようとするよりも、あくまで人間の言語で理解できる形にして、議論や修正が可能な地平をつくっておく方がよほど実践的で健全ではないでしょうか。 Ludwig Wittgenstein『論理哲学論考』と似たような発想かもしれません。 およそ語られうることは明晰に語られるし、論じ得ないことについては人は沈黙せねばならないのです。 その意味で、私の定義でのヒューマニズムを実践することは人間が人間であるもっともらしい方法、すなわち、人間の性質を尊重する営みなのではないでしょうか。

ヒューマニズムの養い方

 では、この人間の性質を尊重する営みであるヒューマニズムをどう養うべきでしょうか。 それは、一つには生活を飾ろうとする努力によって養われると捉えられます。 すなわち、我々が日常的に触れる何気ないものやことに表現を通じて価値を持たせることが大事なのです。 そして最近、それを実践するためのヒントが宮沢賢治の「雨ニモマケズ」や「農民芸術概論綱要」にあるのではないかと気が付きました。 「雨ニモマケズ」は、自分を中心に世界を支配的に記述するのではなく、むしろ自然の厳しさや他者の苦しみに自分の身体ごと晒し、素朴な言葉で応答しようとする態度そのものを描いています。 この詩は過剰な観念や装飾を排し、食べるものや働き方、人との接し方といった日常の具体的な所作を列挙することで、有限な身体と有限な言語に忠実な実践のモデルを示していると言えるのではないでしょうか。

 加えて、『農民芸術概論綱要』に見られる思想は、この詩的態度を社会的・芸術的な次元へ昇華するものであるように見えます。 賢治は農民の生活に根ざした芸術の必要を説き、個人の幸福は世界全体が幸福にならないうちはあり得ないという認識のもとで、生活と芸術の結合、共同体の活性化を訴えます。 そこでは芸術は抽象的な高踏ではなく、農村の営為に寄り添いながら共感と交換を促す実践として位置づけられるのです。 この二つを合わせて読むと、ヒューマニズムを養う「基本動作」が見えてくるのではないでしょうか。 それはすなわち、世界を遠く抽象化して眺めるのではなく、まず自分の有限な言葉と身体で素朴に応答してみること、その応答を他者と交換し、生活と結びつけて反復することであるはずです。

 以上の洞察を踏まえると、ヒューマニズムは理念的な終着点ではなく、日常の中で反復し鍛えられる実践であると結論づけることができます。 賢治は詩と論考の両面で、ヒューマニズムを抽象理念としてではなく、訓練可能で社会的な態度として提示してくれました。 そして、これこそがヒューマニズムの本質ではないかと、思索するなどしてみました。

参考文献

  1. 宮沢賢治/青空文庫. 雨ニモマケズ. https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/45630_23908.html (参照日:2025年11月25日)。
  2. 宮沢賢治/青空文庫. 農民芸術概論綱要. https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/2386_13825.html (参照日:2025年11月25日)。